夏への扉


暮れ方に吹く風やさし ひぐらしが鳴きそめし日の稻を撫でゆく

熱帶化進む 日本の農村が染まりゆく靑き襟の亞細亞に

ヴェトナムの少女は笑ふ 自轉車に乘る異邦人多き田舍で

孫や子がかへりくる地を死に染めて枯葉劑撒く夏の老人

蟲も人も、野に死ににけり。農藥と呼ばれし毒を頭から浴び

田園を戰場とした差別的大量殺戮行爲を禁ず

われらなほ戰時下にあり農機具の多くは軍事兵器の血すぢ

八月が折り返す日の永遠を解くときまさに終戰は來る

未來永劫、歸らずと云ふ山村の部落にいまもある鄰保班りんぽはん

祓へども鬼かへりくるたましひの情報處理しょりが孕む錯誤エラー

差別のこるぼくの瞳に禁忌より逃れ來て愛を交はすバリ人

いたづらに確定される明日のためにくびられ、ぶらさげられた未來が

たましひを冷凍保存されしまま働く夢遊病者工場

ゼロ除算されたあなたは誰なのか不定、どこにでもゆける扉で

洗へども落ちぬ匂ひに隱された見えない戰爭からの脫走

折りかへりひづむ虛像とゆらぎとを區別して見る海のすがたは

草や木々小鳥や蟲と話すときのあなたが森へ還るよろこび

この場所の土となるべく旅をしたルイボスを飮み、茶葉を野に撒く

人參の種子と靜かに呼びかはす自然解放同盟前史

『脫走兵』唄ひつつゆく水曜の散步の果てに辿り着くまで

革命の理論をもちて蟲たちと對話たいわする自然共產主義者

たましひが籠る言葉は實質じっしつの二倍よりひろき帶域をもつ

無農藥無化學肥料脫人間中心主義的自然信仰

自然へと還元された森として生きる人間以後のぼくらは

光へとむかふものらを繰り返す徒勞から解く、蟲取り網で

血を吸はれをはるまで待つ永遠に幼きもののごとき彼女に

ゆふぐれの過ぎし眞夏の片隅で確かにゆらぎはりだすもの

暗闇に存在たちが鳴りひびく、夜明け前、ぼくに世界が滿ちた。

世界內存在たちを一身におぼえて震へやまぬ世界が

滿身を突き拔けて吹く夏の風にいだかれひとり步むこの道

ほんたうの夏への扉開きいまいのちが巡る日々に旅立つ

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